耳鳴り Q&A

耳鳴り診療の手順

耳鳴りの発生機序

耳鳴りの特性

耳鳴りの治療を理解するために

Q4-1 耳鳴りは治らないといわれました。





Q1-1:耳鳴りの問診で重要なポイントは何ですか?

1.拍動性耳鳴・他覚的耳鳴

耳鳴りの患者さんの8割以上は自分の耳鳴りを「キーン・ジー・シーン」あるいは「蝉の鳴き声・モーターの音」などと表現します。一方で1割程度の患者さんは耳鳴りを「脈打つような耳鳴り」と表現します。脈打つような耳鳴りは拍動性耳鳴と呼ばれ、持続性の耳鳴りが時に拍動性に感じられることもあります。拍動性の耳鳴がそれ以外の耳鳴りと原因が異なることもあります。

一般に耳鳴りは本人だけが聞いているもの(自覚的耳鳴)ですが、拍動性耳鳴の中には、何らかの手段を用いれば他人も聞くことができる耳鳴りがあり他覚的耳鳴と呼ばれます。

拍動性耳鳴の原因となる疾患

血管奇形頸静脈球奇形
S状静脈洞拡張
動静脈奇形・動静脈瘻
頸動脈動脈硬化性疾患
頸動脈奇形
その他
血管性腫瘍グロムス腫瘍
血管腫
その他特発性頭蓋内圧亢進
半規管裂隙(SCD)
軟口蓋・中耳ミオクローヌス
耳管開放症
耳硬化症
滲出性中耳炎
中耳奇形
聴神経腫瘍

  • 頻度はまれな疾患です。
  • ほとんどの疾患は画像診断が有用です。

2.耳鳴りの経過

  • 突然の難聴に伴う耳鳴りは突発性難聴による可能性があります。
  • まれに耳鳴りが発作的に起こり繰り返すものがあります。
  • ほとんどの耳鳴りは持続性のものです。
  • 持続性の耳鳴りでも耳鳴が大きくなったり小さくなったりすることが多いとされます。

3.難聴の有無

  • 耳鳴りの患者さんの80%は難聴を伴います。
  • 難聴を伴わない耳鳴りもあり、無難聴性耳鳴と呼ばれ、耳鳴りの患者さんの17%程度に認められます。
  • 難聴があるから必ず耳鳴りを伴うわけではありません。聴力検査で難聴が認められた患者さんのうち耳鳴りを訴えるのは40%程度です。
  • 難聴は耳鳴りを起こす大きな誘因ですが、それに何か他の要因が加わって耳鳴りが起こるものと考えられます。
  • 難聴を伴う耳鳴りと無難聴性耳鳴では原因が異なります。

4.難聴以外の随伴症状

めまい

  • めまい・難聴・耳鳴りを繰り返す病気の代表がメニエール病です。
  • 突発性難聴ではめまいを伴うことがあります。
  • 聴こえの神経に発症する良性腫瘍(聴神経腫瘍)では耳鳴りが初発症状のことが多く、進行例ではふらつきが起こることがあります。

頭痛

  • 耳鳴りの患者さんが頭痛を訴えることがあります。
  • 頭痛は耳鳴りを増悪させる因子となります。
  • 緊張型頭痛や片頭痛などの頭痛を治療することは耳鳴の軽減につながります。
  • 頭痛を伴う耳鳴にはまれながら、頭蓋内圧亢進症・キアリ奇形・聴神経腫瘍があります。

体性感覚の異常

  • 首こり・肩凝りは耳鳴りを悪化させる因子です。頸椎異常の診断は耳鳴りの原因診断に不可欠です。
  • 頸椎異常では手足のしびれや知覚異常を訴えることもあります。
  • 顎関節症などの顎の関節の変化は耳鳴り影響します。歯をくいしばると耳鳴りが変化することを訴えることもあります。

精神症状

  • うつ病や不安障害で耳鳴りを訴えることがあります。
  • 睡眠障害は耳鳴りを強く変化させる要因です。
  • 身体表現性障害のひとつとして耳鳴りを訴えることがあります。
  • 心身の状態は耳鳴りに強い影響をあたえることがあります。

5.内科疾患の有無

  • 体調や全身状態は耳鳴りの状態に強く影響を与えます。
  • 内科疾患の有無は耳鳴りの治療を考えるうえで重要なポイントです。
  • 高血圧・糖尿病・高脂血症などきちんと確認することが大切です。
  • 薬物の中には耳鳴の原因となるものがあります。

耳鳴の原因となる薬物

抗生物質アミノグリコシド系
マクロライド系
バンコマイシン
抗うつ剤三環系抗うつ剤
SSRI
SNRI
抗マラリア薬キニン
抗がん剤シスプラチン
利尿剤エタクリン酸
ラシックス
免疫療法剤インターフェロン
ミコフェノール酸
ラパリムス(シロリムス)
レチノイド
タクロリムス
鎮痛剤イブプロフェン
サリチル酸アスピリン
その他カフェイン
ニコチン
ランソプラゾール(PPI)

6.耳鳴の増悪因子

耳鳴を増悪させる因子

  • 様々な要因が耳鳴を変化させます。
  • 耳鳴増悪因子は個人差大きいと言われています。
  • 睡眠障害・首こり肩こり・ストレスは耳鳴増悪の三大要因です。
  • グラフは米国における耳鳴増悪因子のデータです。

Q1-2:鼓膜所見から耳鳴りの原因が分かるものはありますか?

  • 耳鳴りの患者さんのほとんどは鼓膜所見で異常は認められません。
  • 外耳疾患や中耳疾患が耳鳴の原因となることがあり、耳内所見や鼓膜所見で診断することができます。

滲出性中耳炎の鼓膜所見
滲出性中耳炎の鼓膜所見(*鼓膜を通して貯留液がアメ色に見える)
慢性中耳炎の鼓膜所見
慢性中耳炎の鼓膜所見(*鼓膜の大きな穿孔)
真珠腫性中耳炎の所見
真珠腫性中耳炎の所見(*鼓膜の一部が鼓室に侵入している)

耳鳴の原因となる外耳・中耳疾患

外耳疾患後天性外耳道狭窄
耳垢栓塞
外耳道異物
中耳疾患滲出性中耳炎
慢性中耳炎
真珠腫性中耳炎
耳硬化症

Q1-3:耳鳴りの検査にはどんなものがありますか?

  • 検査は一定の手順で行い、適切な診断に基づき治療方針を決定することが重要です。

手順1  標準純音聴力検査

  • 耳鳴りの患者さんの80%には難聴を伴います。難聴を確認するため標準純音聴力検査が不可欠です。
  • 聴力検査により難聴の鑑別診断を行います。

手順2  標準耳鳴検査

  • 標準耳鳴検査では耳鳴りの高さ(ピッチ)と大きさ(ラウドネス)を測定します。
  • 耳鳴検査と聴力検査に結果を合わせて考え、耳鳴りと難聴の関連性を推測します。
  • 耳鳴検査の結果は経過観察に重要であり、治療効果の判定に有用です。

手順3  聴力検査による診断

  • 聴力検査の結果により難聴を診断します。
  • 検査結果は伝音性難聴、感音性難聴・混合性難聴に分類されます。
  • 難聴の診断から耳鳴りの原因診断を行います。

それぞれの難聴をきたす疾患

伝音性難聴
   外耳疾患


   中耳疾患

後天性外耳道狭窄
耳垢栓塞
外耳道異物
滲出性中耳炎
慢性中耳炎
真珠腫性中耳炎
耳硬化症
感音性難聴突発性難聴
騒音難聴・音響障害
加齢性難聴
薬剤性難聴
メニエール病
外リンパ瘻
聴神経腫瘍
その他

手順4  内耳性耳鳴の診断

  • 難聴を伴う耳鳴りでは内耳障害によるものが多く認められます。
  • 内耳障害に伴う耳鳴り(内耳性耳鳴)を診断する検査を行い確定診断します。
  • 当院で行う内耳性障害診断の検査法は、自記オージオ検査・SISI検査です。

手順5  その他の検査

  • めまいを伴う耳鳴りでは平衡機能検査を行います。
  • MRIやCTなどの画像検査が必要な耳鳴りの患者さんは多くはありませんが、いくつかの疾患では診断に画像検査が有用なことがあります。

Q1-4:耳鳴りの治療はどのように進めるのですか?

耳鳴りの治療法には様々なものがありますが、薬物療法だけでなく患者さんに適した治療法を組み合わせて総合的に治療することが大切です。小林耳鼻咽喉科内科クリニックの耳鳴り総合治療には正確な診断のもとに段階を踏んだ治療を行っています。

1st Step 原疾患に対する治療

耳鳴りの原因となる疾患には特定の治療法があるものがあります。耳鳴りの治療の第1段階は原因疾患に対する治療から始まります。

原因疾患に対する特定な治療

外耳疾患
 後天性外耳道狭窄
 耳垢栓塞
 外耳道異物
中耳疾患
 滲出性中耳炎


 慢性中耳炎
 真珠腫性中耳炎
 耳硬化症

外耳道形成術
耳垢栓塞除去
異物摘出

鼓膜切開
鼓膜チューブ留置術
補助的な薬物療法
鼓室形成術
鼓室形成術
アブミ骨手術
内耳疾患
 突発性難聴
 騒音難聴
 音響外傷

 メニエール病


 外リンパ瘻
 薬剤性難聴
後迷路疾患
 聴神経腫瘍

早期の薬物療法
音響曝露の予防
早期の薬物療法
音響曝露の予防
薬物療法
中耳加圧療法
内リンパ嚢減圧術
外リンパ瘻閉鎖術
薬剤投与法の選択

聴神経腫瘍摘出術
その他
 うつ病
 不安障害
 身体表現性障害

抗うつ剤
抗不安薬
心理学的治療
心身医学的治療

2nd Step 耳鳴りの薬物療法

耳鳴りの治療には様々な薬物が用いられていますが、それらは漫然と用いるのではなく、耳鳴り発症機序に基づき一定の手順(プロトコール)を踏んで服用するようにすることが大切です。あれやこれや薬物を同時に投与するよりは段階を踏んで投与し患者さんに適した治療を行うことが原則です。
耳鳴りの薬物療法の対象となる患者さんは

  • 原因疾患に対する治療のない耳鳴り
  • 原因不明の耳鳴り
  • 原因疾患に対する治療では改善しない耳鳴り

内耳機能の改善をはかる薬物療法から耳鳴りの治療を開始する。

耳鳴りの患者さんの8割には難聴を伴います。そのほとんどは内耳性難聴であり、耳鳴りは内耳性耳鳴症と考えられます。内耳機能改善をめざす薬物療法が耳鳴りの薬物療法の最初の段階です。服用後の経過観察で効果が認められない場合には漫然と投与することのないようにすることが大切です。


内耳機能の改善をはかる薬物

耳鳴りを増悪させる要因を考え薬物療法を行う。

様々な要因が耳鳴りを増悪させます。増悪させる要因は個人差があり、それをはっきりさせることが治療法の選択に有用です。一般的には次の3つが耳鳴りを増悪させる要因と考えられています。

  • 睡眠障害
  • 頭を取り巻く筋肉の過剰な緊張(首こり肩凝り)
  • 様々なストレス
増悪因子の改善は単に薬物療法に頼るのではなく、生活習慣の改善や運動療法など総合的なアプローチが大切です。


増悪因子の改善をはかる薬物

心身の安定をはかり耳鳴りを軽減させる薬物療法も選択肢である。

難聴を伴う耳鳴りであっても様々なストレスが耳鳴りを悪化させます。心因性の耳鳴りもあります。心身を安定させることは耳鳴りを軽減させることになります。適切な薬物を選択し治療を行います。耳鳴りの治療で心身の状態を考える場合、次の点が要点です。

  • 耳鳴りに対する不安感があるか
  • 耳鳴りに伴いうつの状態になっていないか
  • 心理的ストレスが必要以上に身体的症状となっていないか


心身の安定をめざす薬物

経験的に耳鳴りの治療に用いられる薬がある。

経験的に耳鳴りの治療に用いられる薬物があります。これらはいずれも効果にはっきりとしたエビデンスがなく、投与には慎重である必要があります。


経験的に耳鳴りの治療に用いる薬物

3rd Step 耳鳴りの総合的治療

耳鳴りの治療法には薬物療法ばかりでなく、生活指導管理、ストレスマネージメント、音響心理学的治療など様々なものがあります。これらを患者さん一人ひとりに適した形で行うことが重要です。

Q1-5:耳鳴りの原因がはっきりしないと言われました。治療はあるのでしょうか。

耳鳴りの発症には複雑な要因がからみ、原因がはっきりしないことがあります。原因がはっきりしない場合でも、一定の手順に従って耳鳴りの治療を行い、効果を期待することができます。ただし治療に対する正しい理解が大切です。

耳鳴りの発生機序

Q2-1:耳鳴りは良くある病気なのですか?

米国の統計では40005000万人が一過性でない耳鳴りを有しているとされています。これは米国の人口の1216%にあたります。耳鳴りは決してまれなものではありません。けれども耳鳴りを感ずる人がすべて医療機関を受診する訳ではありません。やはり米国の統計によると耳鳴りが原因で医療機関を受診するのは耳鳴りを自覚するすべての25%以下といわれています。耳鳴りのある多くの人は医療機関を受診して治療を受けているわけではないのです。耳鳴があることが問題ではなく、耳鳴りがどれだけ生活に影響し支障を来すかが医療機関を受診するきっかけになると考えられます。

Q2-2:静かな部屋でわずかな耳鳴りを感じます。心配なことですか?

音を遮断した防音室の中では正常な人の94%の人で耳鳴りを感じたという報告があります防音室内耳鳴。このことから、人はだれでも耳鳴りがあるが、ただ周囲の雑音にかき消されて聴こえないだけであると考える研究者もいます。極めて短い時間、たとえば数秒というような耳鳴りは多くの正常な人が感じているものと考えられます。

Q2-3:耳鳴りはどうして起こるのでしょうか?

耳鳴りは様々な病気が原因で起こりますが、どのように耳鳴が起こってくるか発生機序ははっきりわかっていません。現在いくつかの仮説が考えられています。

正常人と幻肢のある人の脳の研究

耳鳴りは難聴に対する中枢神経系の過敏状態である。

手足を失ってもまだそれらが実在するかのように感じる幻肢という現象があり、実在しない四肢に持続的な痛みを感じることもあります。痛みや触覚は知覚神経を通り脊髄を上行し最終的に大脳皮質で知覚認知されます。体の知覚情報は体の部位によって大脳皮質の特定の部位で知覚され、その分布が解明されています。図のように、正常人と幻肢のある人の脳の研究では脊髄感覚入力によって活性化する大脳皮質領域が幻肢の患者さんでは拡大していることがわかっています。

耳鳴りの多くは耳が障害を受け難聴がある場合によく見られることから、耳鳴りは幻肢のように入力が失われた中枢神経系の過敏状態を反映していると考えることができます。聴覚入力ないと、中枢神経系の細胞が一層活動を増し、脳はそうした神経活動を、耳鳴りという意味ある経験に変えてしまうと考えられます。

内耳感覚細胞の電気生理学的異常が耳鳴りを引き起こす。

脳過敏という中枢性に耳鳴が起こっているという仮説ばかりでなく、内耳感覚細胞の異常が耳鳴りを引き起こすという研究もあります。鎮痛解熱剤であるアスピリンは一過性の耳鳴・難聴を引き起こすことが知られています。アスピリンをモルモットに投与すると、急速に内耳特に蝸牛に取り込まれ、音を感じ取る感覚細胞に分布します。それとともに、内耳感覚細胞の電気生理学的な変化が起き、蝸牛神経聴覚の刺激を伝える神経の自発放電が増加します。この自発放電の増加が耳鳴り信号として知覚されると考えられています。

耳鳴りは聴覚に関する神経ネットワークから起こってくる。

脳過敏仮説あるいは内耳感覚細胞電気生理学的異常仮説のどちらか単独で耳鳴りの様々な特徴すべてを説明することはできません。耳鳴りの原因疾患がなんであれほとんどすべての患者さんの耳鳴りの特性は同じであることを考えると耳鳴りの発生機序はどの患者さんでもほぼ同じであると思われます。おそらく内耳感覚細胞に始まりそれに連なる蝸牛神経そして大脳聴覚野に至る聴覚に関する神経ネットワークを中心に中枢神経系全体が関与した複雑な仕組みの中で耳鳴りという感覚が発生してくると私たちは考えています。

Q2-4:難聴はありませんが、耳鳴りがあります。

耳鳴りの多くは難聴を伴いますが、20%程度の患者さんでは難聴を伴わず無難聴性耳鳴とよばれます。無難聴性耳鳴の発生機序ははっきりわかっていません。難聴がありませんのでQ2-3で述べたような機序で起こることは考えられません。難聴の自覚がなくても聴力検査では難聴が認められることも少なくありません。標準純音聴力検査による聴力の確認が大切です。標準純音聴力検査が正常であった場合でも無難聴性耳鳴の診断は慎重に行なうことが必要です。標準純音聴力検査は8000Hzを超えた音域の検査は器械の規格で測定できません。たとえ標準純音聴力検査が正常であっても高い音域の聞こえ変化している可能性もあります。実際、聴力検査が正常の患者さんの耳鳴りの高さが10000Hzであったり12000Hzであったりすることがあります。このような場合無難聴性耳鳴を診断すること難しいことになります。一方、標準純音聴力検査で異常がなく、聴力検査の範囲内(125Hz8000Hz)に耳鳴りの高さがある場合無難聴性耳鳴耳鳴が強く疑われます。

Q2-5:加齢とともに耳鳴が起こるようになるのですか。

耳なり、難聴の有訴者率(人口千対)

国民衛生の動向によれば、耳鳴りを訴える人は年齢とともに増加しますが、75歳以上は逆に減少します図の黄色。耳鳴りは加齢の影響はあまり受けません。一方、難聴を訴える人は年齢とともに増加し特に75歳以上では急激に増加します図の赤。年齢の伴う難聴を加齢性難聴といい、加齢性疾患の一つですが、加齢性耳鳴はないと私たちは考えています。耳鳴りは年のせいではないと思われます。

耳鳴りの特性

Q3-1:耳鳴りが大きくてつらい日とそうでもない日があります。

耳鳴を増悪させる因子

耳鳴はいろいろなことで増悪します。研究データからはグラフのようなことが耳鳴り増悪させるとされています。耳鳴りを訴える人の半数以上がストレスや疲労で耳鳴りが増悪するとしています。感冒など体調の変化も耳鳴りに影響します。大きな音や長時間にわたる音の曝露は耳鳴りを変化させます。適切な音の環境が耳鳴りを安定化させるのに役立つものと考えられます。歯をくいしばると耳鳴りが大きくなることがあります。顎の運動は耳鳴りを変化させ、歯ブラシで耳鳴りが大きくなるという方もいます。これらは頭を取り巻く筋肉の緊張の変化によって耳鳴りが変化することを意味しているものと思われます。頭部や頸部の外傷後に起こる耳鳴りはやはり筋緊張が関係していると考えられます。体位の変化や咳・くしゃみが耳鳴りを変化させれることがありますが、これも同じことが考えられます。薬物や飲酒・カフェインは耳鳴りを増悪させることがあります。薬物では解熱剤であるアスピリンやアセトアミノフェンが良く知られています。耳鳴りを増悪させる様々な要因を知り、それに対応することは逆に耳鳴りを和らげることにつながります。

Q3-2:耳鳴りは小さいのですがとても気になりつらいです。

耳鳴りの感じ方には二通りあります。一つは耳鳴りが「大きい、小さい」あるいは「強い、弱いという感じ方。今一つは耳鳴りが「煩わしい」「気になる」という感じ方で、これは「生活に支障をきたすかどうか」と言い換えることもできます。これら二つの感じ方は異なった現象と考えられます。内耳感覚細胞に始まりそれに連なる蝸牛神経そして大脳聴覚野に至る聴覚に関する神経ネットワークを中心に中枢神経系全体が関与した複雑な仕組みの中で耳鳴りという感覚が発生してくると考えられ、脳全体の働きの中でおこる耳鳴りの現象の異なった側面からこれら二つの異なった耳鳴りの感じ方が起こってきているのです。

Q3-3:仕事などに熱中していると耳鳴りが気にならなくなります。

耳鳴りはさまざまな状況で変化します。仕事などで何かに熱中していると耳鳴りが気にならない、耳鳴りを感じないことは多くの人が経験するところです。これには人の意識状態が関係しています。人の意識状態は刻一刻変化し、それとともに耳鳴りも変化します。意識の状態は感覚に影響を与えます。休日、静かな部屋で読書に熱中しているとき、途中で降りだした雨に気づかないことがあります。そして、ふとした瞬間、雨音に気づき「ああ雨だ」という経験はどなたにもあるでしょう。前からの雨音に気づくには意識の変化が必要なのです。耳鳴りも聴覚の感覚ですから、はっきり知覚するには意識の変化が必要です。仕事で、会議に集中する、重要な書類に眼を通すときなど意識は会議や書類に集中しています。その間、耳鳴りの感覚は意識の外に置かれ、耳鳴りを感じないのです。

Q3-4:静かな部屋で耳鳴りが大きくなり気になります。

周りの音環境の変化は耳鳴りの感じ方に影響します。静かな部屋では耳鳴りが気になることはよくあり、逆にある一定以上音のあるところでは耳鳴りは感じにくくなります。周りの音で耳鳴りが感じにくくなる現象を遮蔽効果といいます。周りの音が大きいほど遮蔽効果は強くなります。大きい音では耳鳴りは遮蔽されても不快感が強くなることもあります。これには音が響いて聞こえる現象、聴覚過敏が関連していると思われます。

Q3-5:大きな口を開けたり、歯を食いしばると耳鳴りが変化します。

耳鳴りの患者さんは大きな口を開けたり、歯を食いしばると耳鳴りが変化することを経験します。頸こり肩こりが強くなると耳鳴りが強くなります。頭を取り巻く筋肉の緊張状態は耳鳴りに影響を与える因子です。筋肉からの求心性の中枢神経への入力が耳鳴りを変化させ、体性感覚耳鳴と呼ばれています。

Q3-6:朝目覚めるとき耳鳴りを大きく感じます。

朝目覚めると耳鳴りを大きく感じることがあります。耳鳴りは脳の働き全体のなかで知覚されていると考えられており、脳の働きの状態で耳鳴りの感じ方が異なります。寝ている間は意識がありませんから耳鳴りを感じることはありません。目覚め始めると意識が徐々に回復し始めます。それとともに知覚がもどり耳鳴りを感じ始めることになります。

Q4-1:耳鳴りはなおらないといわれました。

耳鳴りには様々な要因が絡み、治療も複雑なものとなります。適切な治療を進めるには患者さんに耳鳴りの治療を正しく理解していただくことが大切です。いくつか理解のポイントをあげます。①耳鳴りは脳全体の働きの中で知覚される現象である。②耳鳴りの自覚症状には強い弱い(あるいは大きい小さい)というものと煩わしい、気になる(生活に支障をきたす)とがあり、この二つは異なった現象である。③耳鳴りをゼロにすることが治療の目標ではない。